膝関節

膝関節は大腿骨(太もも)、脛骨(すね)、膝蓋骨(お皿)からなる、人体で最も大きな関節です。膝関節の異常を訴えて整形外科を受診する患者さんはきわめて多く、これは膝関節が外傷を受けやすいこと、荷重関節でありながら、その安定性のほとんどを靭帯などの軟部組織に頼っていること、また複雑な構造と機能(運動)を有することなどと関連しています。

膝関節周囲の病気は多くありますが、問診、徒手検査、必要に応じて単純X線(レントゲン)検査やMRI検査などにより診断していきます。治療には保存療法(投薬やリハビリテーション、関節内注射など)と手術療法があります。

当院では、患者さんの症状とご希望をよく理解し、決して保存療法や手術療法に偏らず、手術が必要な場合には、その時期を逸しないよう心がけています。ここでは比較的頻度が高く、場合によっては手術による治療が必要となる病気についてご紹介致します。

変形性膝関節症

日本における変形性膝関節症の有病者数は約2500万人、そのうち症状を呈している患者さんは約800万人と推定されています。男女比は1:4で女性に多く見られ、高齢になるにつれ罹患率は高くなります。原因は関節軟骨の老化(変性)によることが多く、肥満や素因(遺伝)も関与しています。また、外傷や感染の後遺症として発症することもあります。

症状

初期では立ち上がりや歩き始めといった動作開始時の痛みや、階段昇降での痛みが出現します。休めば痛みが消え、動き始めると痛みをさほど感じなくなります。しかし進行すると安静時や歩行時にも痛みが出現し、変形が進行すると膝の曲げ伸ばしも困難になってきます。

治療

症状が軽度の場合には、痛み止めの内服薬や外用薬を使用したり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などを行います。また、大腿四頭筋の筋力トレーニングや関節の動きを改善するリハビリテーションを行います。変形の度合いによっては、足底装具や膝装具を作製することもあります。このような保存療法でも症状が改善しない場合には、手術療法を検討します。

人工膝関節置換術

すり減った膝表面の軟骨や痛んだ骨を取り除き、金属などの人工物に置き換える手術です。虫歯の治療のように、悪いところを削って表面に金属をかぶせるイメージです。従来は大きな皮膚や筋肉の切開が必要でしたが、近年、手術手技や器械の進歩により、最小侵襲手術が導入されるようになりました。当院ではこの最小侵襲手術を積極的に取り入れており、筋肉などへのダメージをより少なくし、また麻酔医との協力により、術後の疼痛をできるだけ軽減させることで、機能回復を早めるように努力しております。

膝周囲骨切り術

膝関節周囲の変形により偏った荷重のストレスを、脛骨や大腿骨を切って角度を変えることで、比較的きれいな軟骨の存在する側へ移動させる手術です。膝の変形の程度や、膝蓋骨の軟骨の程度により、骨切り方法を選択していきます。この手術の最大の利点は、関節を温存できることです。これまで切った骨が癒合するまでの間、活動制限のため社会復帰まで時間を要していましたが、近年、手術器具の進歩により、荷重制限の期間が大幅に短縮されるようなりました。

半月板損傷

半月は、膝関節の大腿骨と脛骨の間にある軟骨様の板で、内側と外側にあり、軟骨を保護するクッションの役割と膝関節の安定性に関与しています。スポーツなどの怪我で断裂する場合や、加齢により擦り切れるように損傷を受ける場合があります。

症状

半月が損傷を受けると、膝の曲げ伸ばしや、ちょっとした膝の角度(捻った時など)により、痛みや引っかかりを生じます。ひどい場合には、膝に水が溜まって腫れたり、急に膝が動かなくなることもあります。

治療

損傷の形態によっては、痛み止めの内服薬や外用薬を使用したり、リハビリテーションで症状が改善する場合もありますが、改善がない場合は手術療法が必要になります。手術方法には損傷した部分を部分的に切り取る切除術と、損傷された部分を縫い合わせる縫合術の2種類があります。当院では、膝周囲を大きく切開することはせず、内視鏡(関節鏡)による低侵襲手術を施行しており、また、可能な限り半月板を温存するように努力しています。

膝前十字靭帯損傷

前十字靭帯は膝関節内にある靭帯で、膝のスポーツ外傷としては高頻度に生じるものの一つです。ジャンプの着地や急停止、急な方向転換や、膝外反強制(膝が内側に入る)などで損傷を受けることが多いです。前十字靭帯は自然治癒率が低く、50%を超える損傷を受けると、ほとんどの症例で断端が退縮し、前十字靭帯不全/欠損膝と呼ばれる不安定膝となります。スポーツ活動に支障を来たすばかりか、放置して無理なスポーツ活動を継続すると早期に二次性変形性膝関節症(軟骨の磨耗、欠損、半月板損傷)になることも多いとされています。

症状

受傷してすぐは膝の痛みと可動域(動き)の制限が見られます。関節内の血腫により腫れも見られます。急性期を過ぎると、膝の不安定感が目立ち、膝が抜けるような感じ(膝崩れ)や、ときには合併した半月損傷によるひっかかり感を自覚される場合もあります。

治療

膝動揺性抑制装具(サポーター)を使用し、早期から痛みのない範囲で関節の動きを改善するリハビリテーションや筋力低下を防ぐためのトレーニングを開始します。

前十字靭帯再建術

前十字靭帯のみの損傷で、日常生活レベル上、不安定感のない方や、ジャンプや全力走などを含むスポーツ活動に従事しない方は保存療法の適応となりますが、損傷された前十字靭帯が保存療法で十分に修復されることは稀とされています。現在一般的に行われているのは、自家腱(自分の腱)を用いた再建術です。自家腱として、骨付き膝蓋腱、ハムストリング(半腱様筋腱、薄筋腱)腱が用いられます。本手術は内視鏡(関節鏡)を用いて行うため、少数の小さな傷で行うことができます。大腿骨、脛骨の元々前十字靭帯が付着していた場所に穴を開け、腱を通し、金属のプレート、スクリューで固定します。靭帯再建術後はリハビリテーションが非常に重要です。当院では再断裂防止を念頭に置き、スポーツ復帰に向けて準備を進めて参ります。